Bourgeon Law Firm’s blog

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【中国法実務】取引相手の株主まで返済を求められるか?

一、 はじめに

 

周知の通り、会社(有限責任公司)という制度の基本は、法人格の独立性及び株主の有限責任にあります。すなわち、会社は、株主の財産と一線を画す自らの財産をもって、主体的に第三者に対し責任を負い、株主は出資額を限度として会社の責任を負うが、会社の債権者に対し直接責任を負わない、という原則です。

 

しかしながら、中国ビジネスの実務において、株主が会社の独立とした法人格及びその有限責任を悪用して、これらを盾に、会社の債権者への返済義務から逃れることは、決して珍しいことではありません。株主の有限責任と債権者の利益との間のバランスを取るために、中国会社法の第20条第3項は、そのような場合に、債権者の利益を著しく害した株主をして、会社の債務にかかる連帯責任を負わせるとし、株主の有限責任を突破する例外を認めております。ただ、具体的にどのような場面において株主まで責任を追及できるか、会社法では明らかにされていないため、2019年11月に最高人民法院により公布された「全国法院の民商事審判業務に関する会議の要旨」(以下「九民紀要」という)は、これに関する詳しい見解を示しました。

 

よって、本文は、九民紀要の規定を踏まえて、会社法人格の否認(つまり、株主への責任追及)の要件を簡単にご説明致します。

 

二、 法人格否認の要件

 

「九民紀要」第二点の(四)によれば、法人格を否認し、株主に連帯責任を負わせるには、結果、主体及び行為の三要件を満たさなければなりません。まず、結果要件とは、会社法人格の独立地位及び株主の有限責任に対する濫用行為により、会社の債権者の利益が著しく害された(つまり、会社が自らの財産で債務を返済できなくなった)ことを指します。そして、主体要件は、上記濫用行為を行なった株主に限って会社の債務について連帯責任を負い、他の株主が当該責任を負わないことです。また、行為要件とは、実務において、上記濫用行為が通常、人格の混同、過度な支配もしくは著しい資本不足の形(詳しくは下記三参照)で現れることを指します。

 

なお、法人格の否認は、会社の法人格に対する徹底的な否定ではなく、具体的な事案において、特定の事実及び法的関係に基づいた、株主の有限責任を突破し会社債務との連帯責任の負担を株主に命じる例外事象に過ぎない、と捉えるべきです。法人格否認の判決は、その拘束力が当該訴訟の当事者にしか適用されず、当事者である会社の他の訴訟にも当然適用されるわけではありません。

 

三、 濫用行為

 

さて、会社法人格の独立地位及び株主の有限責任に対する濫用行為について、実務においてよく見られるパターンを次の通りご紹介します。

 

  1. 人格の混同

会社法人格と株主の人格との混同について、一番の判断基準は、独立とした意志と財産が会社にあるか否かです。実際、会社の財産と株主の財産との境界線が曖昧で、互いの区別がつかないことにより、人格の混同と見なされることが多いようです。裁判所が人格の混同を判断するにあたって考慮する要素は、主に、下記に掲げるものとなります。

 

  • 株主が会社の資金または財産を無償で使用し、帳簿に記載しないこと。
  • 株主が会社の資金で自らの債務を返済する、もしくは、会社の資金を無償で関連会社に使わせる、かつ、帳簿に記載しないこと。
  • 会社の帳簿と株主の帳簿との間に区別がつかず、両者の財産を区別できないこと。
  • 株主の収益と会社の利益との間に区別がつかず、両者の利益を区別できないこと。
  • 会社の財産が株主の名義で記帳され、株主により占有、使用されること。
  • 人格混同のその他情状。

 

また、人格混同の場合、業務上の混同、従業員(特に、財務関係者)の混同、住所の混同も同時に存在することが多いです。これらは、人格混同の判断に必要な条件ではありませんが、その容認を補強する要素となりそうです。

 

  1. 過度な支配

会社の支配株主による過度なコントロール及び意思決定の支配により、会社が独立性を失い、支配株主の道具となり形骸化してしまい、会社の債権者の利益が害されてしまった場合、法人格の否認が認められる可能性があります。例えば、次のようなケースです。

 

  • 親子会社間または子会社間において利益の移転がある。
  • 親子会社間または子会社間の取引で、利益を当事者の片方で享受するが、損失を相手方に負わせる。
  • 会社から資本金の払戻を受け、経営目的が同様か近似する別の会社を設立して、元会社の債務から逃れる。
  • 会社を解散し、元会社の場所、設備、人員をもって、経営目的が同様か近似する別の会社を設立して、元会社の債務から逃れる。
  • 過度な支配のその他情状。

 

従って、会社の支配株主または実際の支配者が、複数の子会社または関連会社をコントロールして、これらの会社を道具として操り、債務の逃避または違法経営を行う場合には、当該子会社または関連会社の法人格が否認され、支配株主に対し連帯責任の負担を裁判所により命じられる可能性が高いようです。また、グループ会社の運営において、会社法及び会社の定款に基づく意思決定、及び、関連会社間取引の正当性及び公平性に注意する必要があります。

 

  1. 著しい資本不足

会社設立後の経営において、株主の払い込んだ資本金が会社の運営に潜むリスクと比べれば明らかに不足し、株主が少ない投資で力の及ばない経営を行い、経営の誠意を持たず、会社の独立した法人格及び株主の有限責任を悪用して投資・経営のリスクを債権者に移転する場合には、「著しい資本不足」と認められ得ます。

 

ただ、少ない投資で大きな利益を得るという正当な会社運営との区分けが難しいため、裁判所は、他の要素と合わせて考慮する上、慎重に認定する傾向にあります。また、これまでの裁判例を見れば、株主による出資金の払い戻しだけで「著しい資本不足」に直結することができず、「著しい資本不足」の認定には、株主の悪意という要件を満たさなければならないようです。

 

四、 終わりに

 

上述する法人格の否認以外、会社の有限責任を飛び越えて株主の責任を追及するには、会社の債権者は、出資義務を履行しなかった株主の補足賠償責任(会社法解釈三第13条第2項)、出資の払い戻しを受けた株主の補足賠償責任(会社法解釈三第14条第2項)、非現金財産による出資の価値減少に基づく出資補足責任(会社法解釈三第15条)、故意または重過失による清算組メンバーの賠償責任(会社法第189条第3項及び会社法解釈二)、会社解散時に出資の払込を行わなかった株主の連帯返済責任(会社法解釈二第22条第2項)、一人有限責任公司の株主連帯責任(会社法第63条)などを検討する価値もあります。

 

なお、会社の債権者による法人格の否認及び関係株主への賠償請求の訴訟において、対象株主を被告とし会社を第三者として訴訟に参加させるか、対象株主と会社を共同被告とするかは、実際の状況を踏まえて、「九民紀要」第二点の(四)13を参考して判断する必要があります。